嗅覚障害(匂いが分からない)の原因と治し方

匂いが分からない、食べ物の風味を感じない、それらの症状は嗅覚障害(きゅうかくしょうがい)かもしれません。

耳鼻科医が嗅覚障害について解説いたします。

嗅覚(匂いを感じる)の仕組み

鼻の穴の最上部(嗅裂)にある「嗅粘膜」に匂いの成分が到達すると、電気信号が嗅神経を通じて大脳へと伝達され、匂いとして感知されます。

このにおいを感じる経路のどこかで障害が起こることで匂いを感じにくくなります。

嗅覚障害の3つの分類

嗅覚障害は、匂いを感じる経路のどこで障害が起こっているかによって3つの病態に分類されます。

気導性嗅覚障害(鼻腔内の障害)

匂いの成分が嗅粘膜に届くまでの鼻腔(鼻の穴の中)の通り道が鼻づまりによって遮られることで生じます。

副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、鼻中隔湾曲症など、鼻づまりの症状が起こる病気が原因となります。特に慢性副鼻腔炎(蓄膿症)が原因となることが多いです。

嗅神経性嗅覚障害(嗅粘膜の障害)

感冒(いわゆる風邪)に代表されるウイルス感染症や薬物などの影響により、嗅粘膜にある嗅神経が障害を受けて匂いを感じにくくなります。

また、頭を打つなどのして嗅神経の末端がちぎれてしまうケースも考えられます。

中枢性嗅覚障害(神経~脳の障害)

交通事故などで頭に強い衝撃が加わった際や、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞などによって脳が匂いの情報を受け取れなくなることで生じる嗅覚障害です。

アルツハイマー病やパーキンソン病などにも嗅覚障害が合併することがあります。

嗅覚障害の原因疾患としては、慢性副鼻腔炎が約50%、感冒罹患後の嗅覚障害が約25%を占めるといわれています。

嗅覚障害の診断・検査

問診

発症時期、思い当たるきっかけ、嗅覚がどのような状態か、服用中の薬、これまでの病歴、その他生活習慣などをお聞きして嗅覚障害の状態を探っていきます。

鼻内視鏡検査

鼻の中の状態を診て、嗅粘膜がある嗅裂という場所の状態や、粘膜の腫れや鼻ポリープ(鼻茸)、腫瘍など匂い成分の伝達を妨げるものがないかを確認します。

CT検査

副鼻腔炎や鼻中隔湾曲症があるかどうか、嗅裂が開いているかなどを調べます。

基準嗅力検査(T&Tオルファクトメトリー)

5種類の嗅素をそれぞれ、薄い匂いから濃い匂いへ順番に匂いが分かるまで嗅いでいきます。匂いを認識できた時点の濃度から嗅覚障害の程度を測定します。

静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)

肘の静脈から強い臭いのあるアリナミンを注射します。その臭いが静脈から肺を通って呼気に臭いが含まれるようになるので、それを鼻の後ろから感じるかどうかを調べる検査です。

これによって嗅覚障害が鼻づまりによるものかどうかを判断します。

嗅覚障害の治療

診断結果から、嗅覚障害の原因に応じた治療を行います。

副鼻腔炎

鼻の洗浄、マクロライド系抗菌薬の服用などによる治療などを行います。通院治療で効果が無い場合は手術治療を行います。

アレルギー性鼻炎

ステロイド剤点鼻や抗ヒスタミン薬によって症状を抑えます。状態によっては手術治療を行います。

体質を改善してアレルギー反応を抑える舌下免疫療法という治療法もあります。

鼻中隔湾曲症

鼻中隔(鼻を左右に分ける壁)の曲がりによるもののため、手術治療が必要となります。

感冒後の嗅覚障害

漢方薬(当帰芍薬散)、ビタミン剤の内服を行います。

近年では、「嗅覚刺激療法」という4種類の嗅素(バラ、ユーカリ、レモン、クローブ)を1日2回朝晩10秒程度嗅ぐという方法が注目されています。

嗅覚障害の治り方には個人差があり、時間をかけてじっくりと治療を続けることが重要です。定期的に診察とあわせて嗅覚検査を行うことで、嗅覚の変化を観察します。

監修医師

  • 老木 浩之
  • ・耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院 理事長
  • ・日本耳鼻咽喉科学会認定専門医
  • ・厚生労働省 補聴器適合判定医師
  • ・医学博士

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